春靄の備忘録

競馬と読了本の記録.

友情(武蔵野小路実篤)を読んで

あらすじ

脚本家野島と新進作家の大宮は熱い友情で結ばれている.野島は大宮のいとこの友人の杉子を熱愛し,大宮に助力を願うが,かねてから大宮に惹かれていた杉子は野島の愛を拒否し,パリに去った大宮に愛の手紙を送る.野島は失恋の苦しみに耐え,仕事の上で,大宮と決闘しようと誓う.

 

運命は波

「波は運命で,人間がそれにうまく乗れるとなんでも思ったように気持ちよくゆくが,一つ乗り損なうといくら焦っても,慌てても,思ったように進むことができない.賢い人だけが次の波を待つ.そして運命は波のように,
自分たちを規則正しく,訪れてくれるのだが,自分達はそれを千に一つも活かすことができないのだ.それを本当に生かせたら大したものだって」
(大宮が波乗りをしたのちに野島に語る場面より)

生きてきた時間が短い自分にとってはまだ分からないが,長い歳月を生きた著者の伝えたいことが書かれているように感じた.良いことはその後も継続して良い人生を過ごすことにつながるが,一度失敗すると人生がうまくいかない.そのような失敗をして人生がうまくいかなくなってしまった時,落ち着いて次の可能性に賭けられるだけの器の大きさをもって生きていきたいと思う.

 

人付き合いと恋愛

「野島をどうか愛してやってください.愛される価値のある男です.人付き合いの悪い無愛想で,怒りっぽい.しかし人のいいことは無類です.ー」
(大宮が杉子に宛てた手紙より)

大宮には野島の良さが理解されているものの,杉子には伝わっていない.
杉子はこのやり取りの前に大宮に対し,「野島は1時間ともにいるだけでもいたたまれない気持ちになる」という旨を述べている.

なぜ,野島は杉子に1時間共にいるのでさえいたたまれない気持ちになるような人と思われているのか.それは大宮と杉子の文通以前の野島の立ち振る舞いが影響している.早川との討論をヒートアップさせてまくし立ててしまったり,早川らとの交流には消極的だったりという側面がみられた.
人が良いことは無類なものの,一緒にいることが短時間でも嫌になる人の特徴は「人付き合いが悪い・無愛想・怒りっぽい」これらに集約されるのではないか と思う.そして実際に身の回りに上記のような人は好かれてはいない.

かなり短い小説だったが,とりわけ恋愛経験が薄い人には有用な知見が得られる作品だった.事実,このような思い違いは自身にもある途中から読むのがつらくなったほどだった.